歴史

ふと気づけば流されてしまっている自分がいる.捉えようのない何か,自分の中にいる何者かが色んなものに姿を変えて現れる.こいつがいる限り,頭で考えたあれやこれやは,そのために割いた時間や労力を含め,ごみくず同然の河原で放置されたテープレコーダのように,ふいにされていまうんだ.
太宰治の’人間失格’を読んでいる.思ってたよりもずっと読みやすくて,話の内容,人物描写ともに突飛なものはなく理解しやすい.さらに当たり前のような文章の巧みさに,素人なりに敬服している.才能や一時の衝動なんかだけでない,膨大な過去の積み重ね,とても全体など知りえない太宰治って人の人間経験の歴史が物語の足元をじんわり浸している.絶対的な迫力,ただただ圧倒されてしまう.
ああ,自分などはただのヒキガエルでしかないんだ,なんて人間失格的表現をしてみても何にも始まりはしない.僕の人間的歴史の排斥物なんてのはまだまだくずかごを一杯にした程度に過ぎないんだ.集積場山積みのごみくずを生み出せるかな.生み出せたとしても,その向こうにあるのは焼き場だけなんだろうか.